著者は、数学界のノーベル賞とも言われるフィールズ賞を受賞した数学者です。
「複素多様体の特異点に関する研究」といった難題を解き明かした方ですが、文体は歯切れよく、内容は平易で読みやすい本です。
この本は大学時代に購入し、折に触れて読み返しています。
その時々で、自身の置かれた状況や心情に即した言葉に出会えます。
今回特に印象に残ったのは、「上手くあきらめることを知らないと、いい仕事は出来ない」という箇所でした。
「あきらめる」というと、とかく消極的に聞こえがちです。
しかし著者は、「いいものを創造するために、上手にあきらめる能力を身につけることが有効に働くことを確信する」と述べています。
また、「あきらめる」はすべてをあきらめるのではない。自分の目標をしっかりと踏まえたままで、あきらめるのである」とも。
逆に言えば、いい仕事をするためであれば、小さな自己を棄て、目的を見定めて大局的に行動する・・・といったことでしょうか。
日常の雑務や過剰な情報に浸されている中で、曇りがちな眼に新鮮な目薬を一滴さした、まさに目の前の雲間が晴れたような感覚でした。
私にとって、生きることの迷いを払拭してくれる、大切なパートナーのような1冊です。