近代建築の巨匠・ミース・ファンデル・ローエには、Three Court House(3つの庭のある家)という、実現しなかったプロジェクトがあります。
この住宅は、プロジェクトで終わったこと、実現しなかったことが、より一層その強い抽象性を引き出しています。
ミースの建築図面は、点のような柱、最小限の壁、一本線のガラス、余白の取り方、地と図のバランスなど、記号のような表現を抱きながらも美しい。
このプランは、大学の建築学科に入学し、初めての授業で、建築史の先生より見せられました。
壁で囲われた1つの建物(領域)に、大、中、小の3つの中庭が配置されています。
アプローチの大きな庭、リビングダイニングに面した中ぐらいの庭、そして寝室に隣接した小さな庭。
人間の動線とプライバシーの密度に、庭の大きさがリンクしています。
すなわち、入り口から奥へ奥へと進むにつれ、パブリックからプライベートな空間になるにつれ、庭の大きさが大→中→小と変わっていきます。
私は、この図面と先生の解説を聞きた時、頭をガツンと打たれたような強い衝撃を覚えました。
間取りの組み合わせや使い勝手の良さだけが建築や設計だと思っていた、先入観が一気に晴れました。
「建築」とは、「設計」とは、「空間」とは…。
正しい答えなどないだろう、しかし、「建築」の可能性と、「建築」を考えることの魅力に、その時以来憑かれています。
人生をかけても良いであろうこと、建築の素晴らしさを教えてくれた、私にとっては大切な1枚の図面です。