著者は東京大学生産技術研究所の教授である。
『明治の都市計画』、擬洋風建築の研究など建築史家としてスタートし、現在では野性味ある素材追及に取り組む建築家としても著名である。
‘薄く軽く’がもてはやされる建築界にあって、その存在はしばしば異端視されてきた。
本書は藤森自身が日本各地に足をはこび、失われつつある味わい深い自然素材について、そのルーツを遡行し現代に掘り起こす旅が、豊富な写真と読みやすい文章で綴られている。
とりあげられた素材は、聚楽土、土佐漆喰、青森ヒバ、ナラ、漆、茅、貝灰、千年釘、柿渋、焼杉、島瓦など構造材、仕上げ材を問わない。なかでも著者の故郷、信州諏訪の鉄平石についての思いは深い。
鉄平石は輝石安山岩。
ノミを入れてはぐ平たく不正形な形が特徴で、古くは古墳の天井石、民家の屋根材などに使われてきた。
藤森はこの鉄平石を、自身の設計「神長官守矢史料館」の屋根において40年ぶりに復活させた。
自邸「タンポポハウス」では屋根・外壁ともに文字通り鉄平石で覆われている。
私が訪れた「秋野不矩美術館」でも屋根材として用いられていた。
鈍い色合いではあるが、鋭く攻撃的な形に強く魅了されたことを憶えている。
決して回顧的な印象ではなく、荒々しい素材感を現代技術と共存させていた。
抽象化、優しさの進みすぎた現代のデザイン潮流において、文化的縄文人、藤森の設計する作品は、「このままでいいのか?」と我々の心を揺り動かすエネルギーに満ちている。
原始時代から潜在的に残る人間のどうしようもない根源的感性に訴えかけてくる。
その視座は本当に異端なのかと考えてしまう。